㐂五亭 分館

雑多な記録

2023 年も南米音楽を聴いたなあというエントリ

こんにちはー!木野どど松です。

こちらはねむだる豆腐音楽会 Advent Calendar 2023 の 21 日目の記事となります。当初はヨルシカなどをドーンと貼って聞いてー!とやろうとしていたのですが、皆さんの紹介曲や記事が想像以上に良くて …… 前夜から慌てて書き直しております。

書き直すにあたり何を題材にするか悩んだのですが、時間も無いですし やはり長年親しんだジャンルである「南米音楽」を、少しだけご紹介してみようかと思います。

イメージとしてはこう …

そう、こういう感じです(いらすとやさんってこんな素材もあるのか… )

はじめに、念のための注釈

自分は学生時代から南米の民音楽を演奏しており、これらは日本では一般的に「フォルクローレ(Folklore)」と呼ばれています。

しかし「フォルクローレ」の本来の語義としては「民間伝承」や、学問ジャンルとしての「民学」です。民誌学・人類誌学 … いわゆる民学のことはふつう、エスノグラフィー(Ethnography)と呼称しますから、巷でよく見かける「フォルクローレアンデスの民音楽」といった書き方は、誤りではないか… と個人的には考えています。何より、南米はアンデス地域だけではないですしね …

そういうわけでこの記事では、自分が演奏してきた南米音楽を、括弧つきの「フォルクローレ」あるいは「民音楽」と記載していきます。

この界隈はこじれると面倒くさいので保身の意味でも

日本における音楽ジャンルとしての「フォルクローレ

さて、「フォルクローレ」や「南米の民俗音楽」と聞くと、一番最初に思い浮かぶのは、やはりこれではないでしょうか?

1970 年にサイモンとガーファンクルが発表した、邦題『コンドルは飛んでいく』です(この音源は恐らく 1970 年版ではありませんが)。この曲、実はサイモンとガーファンクルのオリジナルではなく、1917 年にペルーのダニエル・アロミア・ロブレスによって、スペイン風オペレッタの一部として作曲されたものです。

南米の特定地域の音楽ジャンルを「フォルクローレ」と呼ぶ傾向は、1950 年代のアルゼンチンやチリを中心に、民族アイデンティティの形成を目的として始まります。このワードが、何十年かして、この『コンドルは飛んでいく』の世界的なヒットと共に「素朴な笛や弦楽器で奏でる癒し系ミュージック」のイメージで、日本へ入りました。そのため、いま多くの日本人が「南米音楽」と聞いて思い浮かべるものは、「ヨーロッパやアルゼンチン市場を経由してきた "アンデス音楽" の特にムードミュージック的な部分」という、なんだか大変限定されたものになっています。

南米音楽のイメージがそれだけ、なのはやっぱり勿体ないな~~~というファンとしての思いがあり、「コンドル」以外の個人的に好きな音楽をいくつかピックアップさせてください。

タルケアーダ(Tarqueada)- ボリビア

ボリビアでムシカ・アウトクトナ(Música Autóctona)と呼ばれる、主に田舎の農村地帯で奏でられる音楽からご紹介します。

上記は、タルカ(Tarka)という木の楽器で演奏されるタルケアーダです。主に雨乞いの儀式・祭りなどで演奏されます。続いて、同じような農村音楽でもうひとつ。

モセニャーダ(Moseñada)- ボリビア

こちらはモセニャーダです。タルケアーダと同様、モセーニョ(Moseño)という楽器を複数人で吹きながら練り歩きます。タルケアーダは乾季の音楽、モセニャーダは雨季の音楽です( … のはず。間違えていたら誰かこっそり教えて)

これらの不思議な和音、聴いていて楽しいか?と言われると、最初は「お … おう… 」という感想だと思います。リスニングミュージックとしてはおすすめしづらいのですが、わたしは実際に演奏して以来とりこになってしまい、どうしてもご紹介したかったのです…

タルカやモセーニョはとにかく肺活量が必要な楽器で、吹き続けているとそれなりに酸欠 … 正確には過呼吸、でくらくらします。その状態で、複数人でこの独特のリズムで演奏しながら歩いていくと、なんだかふわふわとしてきて、この音とリズムがとても気持ち良く体へ響いてきます。これが演奏される地域はもっと標高が高く、酸素が薄いはずですから、更に酩酊できるのでしょう。

「同じ土地の人々同士で、きっとこうして心を寄せ合ってきたのだろうな … 」と想像ができる、聴けば聴くほど味わい深い音楽です。

ついでなので、ペルーの曲も

先にご紹介したものよりは、もうちょっと親しみやすいタルカの音色を小休止として。

こちらはカチャンパ(Kachampa)と呼ばれるペルーの伝統的な踊りのリズム、曲です(と、これを一緒に演奏したときは聞いた)。カチャンパはあまり詳しくないのですが 0:56 あたりからのパートで、上記で紹介したタルカを吹いた記憶があるので挙げてみました。

エストゥディアンティーナ(Estudiantina)

アウトクトナと比較分類するのであれば、ムシカ・クリオーリャ(Música Criolla)になるでしょうか。クリオーリャ(原形は男性形クリオーリョとは、中南米で生まれたスペイン系の人々を指す言葉です。アウトクトナに比べると「都会的」と言うのが正しいのかわかりませんが… かつての宗主国であるスペインの色が、あるていど濃い音楽です。

上記はボリビアエストゥディアンティーナで、管弦楽団形式の音楽です。タルケアーダやモセニャーダと比べると、非常に「ヨーロッパ的」な雰囲気があります。

エストゥディアンティーナは、もともとはスペインの学生集団が演奏していた音楽で、それらが中南米へ入り現地の音楽と結びつきました。そのため楽器編成も、バイオリンやチェロ、マンドリンといった西洋楽器に、ケーナサンポーニャチャランゴなどの南米楽器を加えたものになっています。

自分は大学を出た後は、もっぱらエストゥディアンティーナを演奏していました。コロナ禍以前は、ダンスパーティや式典など、かしこまった場へ呼ばれて演奏することが多かったですね。

ボリビアばかり貼っていて怒られそうなので、チョロっとベネズエラエストゥディアンティーナもご紹介しておきます。ベネズエラと言えば、有名な楽器はマラカスです。上記のエストゥディアンティーナも、マラカスやシェイカーなどが入った、軽快でキレの良いベネズエラポルカに仕上がっています。

エストゥディアンティーナの採譜は西洋音楽の形式で行われているため、日本人同士で譜面どおりに演奏すると、最初は妙にカッチリとした西洋オーケストラ風の音楽に仕上がります。しかし演奏回数を重ね中南米音楽を聴きこむうちに、譜面上へ表れない(表せない)中南米音楽の独特のリズム感やお作法 … そうしたグルーヴが生まれてきて、それがとても面白いのです。

ポトシ音楽(Potosí)- ボリビア

ボリビアばかりやな… という感じですみません。そうです、南米と書いておいてボリビアばかりです。好きなので …

ポトシボリビア南部の地名です。標高は約 4,000m で、セロ・リコ山を中心とした南米最大の銀山、ポトシ銀山があります。スペイン統治時代には、鉱山採掘の人手として、多くの先住民族やアフリカ人たちが強制労働に従事させられた、「負の世界遺産」としても有名な地です。

と、ややネガティブな紹介から入りましたが、このポトシ・スタイルのチャランゴ奏者であるアルベルト・アルテアガの演奏を聴いてみてください。

これまでの中では最も「牧歌的」な雰囲気なのではないでしょうか。

奏でられている楽器はチャランゴと言います(あと、ベースラインのためのクラシックギター。現在、演奏されるチャランゴは、ほとんどはナイロン弦が張ってあるのですが、こちらは鉄弦です。奏法もナイロン弦のチャランゴとは少し違い、メロディラインと伴奏を同時に弾きます。因みにわたしは、この奏法に何度かチャレンジして早々に挫折しました。難しすぎるって。

鉄弦特有のキラキラとした音に、ワイニョ(Huayño・Wayno スペイン語が入る前からあるリズムなので、正確なスペイン語表記がありません)という先住民の土着のリズム。明るい曲調ですが、ポトシの辿った歴史を思いながら聴くと、なんだか堪らない気持ちになるのです。

こちらもポトシ・スタイルの演奏家として代表的なグルーポ・ノルテ・ポトシ(Grupo Norte Potosí)の動画です。Norte は North なので、グループ北ポトシの意味です。前半は先住民であるケチュア族の言語、ケチュア語で、後半は公用語であるスペイン語で歌われています。

伝統的な民衣装をまとった彼らは、アルテアガとはまた違った華やかさがあり、わたしが南米音楽へのめりこむきっかけともなった演奏家です。

ちょっと寄り道

ポトシ銀山へ触れたので、ついでにこちらの曲も。アルゼンチン北部生まれケーナの巨匠として、一度は名前を聞いたことがあるであろうウニャ・ラモスの『リャマの道』です。

リャマ(アルパカじゃないよ)は、南米の山岳地帯では、昔から荷運びに用いられてきた動物です。もちろん先の鉱山でも、多くのリャマが使役されました。銀塊を背にしたリャマと先住民・アフリカ人たちが、4,000m の山岳から港まで、細く隊列をなしている … そしてその銀は、スペイン銀貨としてヨーロッパを潤す。この過酷な「リャマの道」の中で、どれほどのリャマと奴隷たちの命が失われたことでしょう。

… などと考えると、日本で人気のこの曲も、個人的には「癒し系のアンデス音楽」とは、言いづらい気持ちがあります。とは言え、これはあくまで個人の「感傷」で、変な文脈を付与せずに素直に音を楽しむこともまた、音楽鑑賞には必要です。ぜひ皆さんの想像した風景、曲の感想を聞かせてください。

そして、ポピュラー音楽

このあたりの大御所をポピュラーと称すると、様々な方面から怒られるなあ … と思うのですが、わかりやすさのために、ひとまずポピュラーで許してください。編成には「素朴な笛や弦楽器」もいますが、「癒し系ミュージック」とは印象を異にして、ライブハウスでガツンと殴ってくるタイプの「南米音楽」です。

日本の学生の南米音楽界隈でよく演奏されるのは、実はこのあたりです。ドラムセットにベースも入り、エレキギターがゴリゴリですが、南米の「伝統的」な音楽の要素が取り入れられています。上からボリビアボリビアエクアドルのグループです。本当にボリビアばっかだね …

いかがでしたか?

もしよろしければ高評価とチャンネル登録をお願いします👍👍👍は冗談ですが、ほんの少しだけでも「風と癒しの素朴な音楽」以外の一面を知っていただければ、1 ファンとしてはとても嬉しいです。

きちんと歴史的に語るのであれば、ヌエバ・カンシオンに始まり、チリ・アルゼンチン音楽、アフリカ系音楽は外せませんし、現在の南米音楽シーンでは、カルナバル音楽、キューバなどカリブ系のルンバ、コロンビアなどのクンビアにも触れる必要があります… が、今回は「イチオシの音楽について教えて!」というアドカレの趣旨に則り、どど松イチオシの音楽を最優先で挙げてみました。きっと 2024 年もこのあたりの音楽からは離れられないことでしょう…

それでは、皆さん良いお年を!